篠原は施主との間で残す必要のある2本の赤松を敷地境界線寄り
に立てない事と西南に向かってかけ落ちるような急勾配の斜面
の上にこの敷地の様子をなるべく変えずに、高い天井の大きな
主室を持つ住宅を建てること、が基本事項として決められた。
高さの問題はともかく、大きな部屋をつくることは地形と矛盾する。
傾斜の方向に必要な水平距離をよれば、床面は地表との間に大きな
落差をつくる。そして直角の方向の幅で解決しようとすると2本の
赤松の位置がそれを制限する。篠原は斜面の50分の1実測図を
下敷きにしながら、この急勾配と拮抗する殻の形を求める作業を続
けた。斜面の勾配方向に沿って45度の幾何学数値で急上昇する
屋根面によって、その下の空間の高さを獲得した。高く上昇した
この屋根面を再び地形と結び付けるために、30度近辺の逆勾配の
屋根面を加えて全体の輪郭を決めた。さらに、この斜面方向16m
の水平距離がつくる地表との落差の解消を分担させるために、
途中で1.2mの段差をつけた床面を採用した。それでも地表との
間には落差が残るため、寝室をそこに配置して、広間の方が
上にある特殊な構成をつくった。入り口レベルはこの中間にある
ためそこに立つと天井まで8mある。広間のレベルに上がると
天井高は最高6.6mの高さから一挙に0まで落下する。 |