地中海周辺地域、中南米地域、東欧、中近東地域、インド、ネパール地域、西アフリカ
     地域を対象とした集落研究・調査から学んだデザイン理論を要約したものである。

     01 あらゆる部分(Every Possible Part)
         あらゆる部分を計画せよ。あらゆる部分をデザインせよ。偶然に出来ていそう
         なスタイル、なにげない風情、自然発生的な見かけも、計算しつくされたデザ
         インの結果である。
     02 同じもの(Same Object)
         同じものはつくるな。同じものになろうとするものは、すべて変形せよ。
     03 場所(Place)
         場所に力がある。
     04 離れて立つ(Stand Apart)
         離れて立て。
     05 すべてのものにはすべてがある(All in One)
         すべてのものにはすべてがあるのだから、どんな小さなものでも世界を表現で
         きる。
     06 なんでもある住居(Houses Hold Everything)
         すべての都市、すべての集落は、住居の延長である。住居の重ね合わせが、都
         市であり、集落である。
     07 共同幻想(Common Construct)
         共同幻想だけが、あらゆる集落や都市を実現してきた。
     08 伝統(Tradition)
         ある場所の伝統は、他のいかなる場所における伝統でもある。
     09 秩序(Order)
         表現されたものは、すべて秩序づけられてしまったものである。この世にはほ
         とんど、秩序しかない。すべての集落や建築は、秩序づけられてしまっている。
     10 矛盾(Contradiction)
         矛盾から秩序を育て上げよ。
     11 大きな構想(Grand Conception)
         大きな仕掛けは、大きな構想を支える。大きな仕掛けは、小さな部分によって
         支えられる。大きな構想が、そのまま実現されれば、退屈な集落となる。
     12 不動なるもの(Immobile Objects)
         集落が好むのは、不動なるものではない。絶えざる変化であり、展開である。
     13 複雑さ(Variation and Complexity)
         複雑なものは単純化せよ。単純なものは複雑化せよ。その手続きの複雑さが、
         人の心をうつ。
     14 高貴なるもの(Precious Objects)
         高貴なるものと、神聖なるものとを峻別せよ。集落には、高貴なるものは必要
         としないが、神聖なるものがなかったら集落は成立しない。
     15 混成系(Heterogeneity)
         幾何学的な形態と不安定な形態、一義的に意味づけられた場所と多義的な場所、
         明るさと暗さ、荘厳された場所と日常的な場所、古いものと新しいもの等々の
         二律背反するものを混在せしめよ。また、それらのグラデュアルな変化を混在
         せしめよ。そして、全域をなめらかに秩序づけよ。
     16 共有するもの(Communal Objects)
         人間が意識の諸部分を共有するように、諸部分がそれより小さな諸部分を共有
         するようにして、集落や建築をつくれ。この方法が幻想的な世界の基礎である。
         みんなでつくらねばならない。みんなでつくってはならない。
     17 飛び火現象(Leaping Flames)
         遠く離れたところで、似たことが考えられ、似たものがつくられている。同様
         に遠い昔に、いま考えられていることを誰かが考えた。
     18 標準語と方言(Standard and Dialect)
         集落にあるほとんどのものが、標準語ではない。ほとんどが方言(変形)であ
         る。しかし、可視的になっていない標準語がある。
     19 差異と類似(Differences and Sameness)
         集落の間で、建物の間で、部屋の間で、差異と類似のネットワークをつくれ。
     20 場面を待つ(Anticipation)
         祭が集落の様相を変えるように、いろいろな出来事が集落や建築を変える。場
         所を待つように、それらをつくらねばならない。
     21 物語(Narrative)
         集落は物語である。集落の虚構性が、現実の生活を支える。
     22 アジール(Sanctuary)
         すべての集落には、支配下のなかの解放区がある。
     23 逃亡者(Refugees)
         逃亡者たちは、楽園をつくる。撤退せよ。
     24 開拓者(Pioneers)
         開拓者たちは、文化を理想化して移植する。
     25 訪れてくる人(Visitors)
         訪れてくる人のために工夫せよ。
     26 秘密結社(Secret Society)
         秘密結社のようにつくれ。
     27 自然の潜在力(Natural Power)
         場所に潜んでいる自然の力を最大限に誘起せよ。その平衡状態が集落の姿であ
         り、社会の秩序である。だから、自然は常に社会化されていて、厳しい自然の
         下で集落は安定する。
     28 時のうつり(Transition)
         建築を「旅」のようにつくれ。
     29 (Death)
         死者とともに生きよ。
     30 呼吸(Breathing)
         自然の呼吸にあわせて、集落や建築の呼吸を計画せよ。
     31 浮力(Buoyancy)
         浮力の場を生成せよ。天体を呼び寄せよ。
     32 (Light)
         光は、自然のシンボルである。特に、光の反射に注意せよ。光の限りない変容
         を建築に映し出せ。
     33 温度(Temperature)
         温度の差異を活用せよ。
     34 湿度(Humidity)
         乾燥している状態は、知恵を生き生きとさせる。
     35 (Sound)
         なかんずく、音に注意せよ。吸音的であること、反射的であること。ピタゴラ
         スが、天界の運動の音響(ハルモニア)を聴いたことを想定せよ。
     36 空気(Air)
         空気を設計せよ。
     37 (Wind)
         風を起こせ。風の音を聴け。
     38 夜明け(Dawn)
         すべてが見えてくる夜明けに、集落の様相を見よ。
     39 夕暮れ(Dusk)
         すべてが見えなくなる夕暮れに、集落の様相を見よ。
     40 乾燥季あるいは冬(Dry Season/Winter)
         乾燥季あるいは冬にあわせて、集落や建築の様相を決定せよ。
     41 雨季あるいは夏(Wet Season/Summer)
         雨季あるいは夏にあわせて、集落や建築の身体的な快適さを追求せよ。
     42 方位あるいは方向(Direction)
         聖なる方向を設定し、事物の配列の根拠にせよ。
     43 太陽の動き(The Sun's Movement)
         太陽の位置の変化、時刻や季節とともに変わる陽射しの強さ、角度、色彩に注
         意し、それらの計測表示として建築をつくれ。
     44 (Sky)
         建築は、空から無限の変化を与えられる。時に、裏切って空に形を与えよ。
     45 (Water)
         水は、集落や建築の配列を誘導する。
     46 (Wave)
         波から事物の配列法を学べ。
     47 (Earth)
         土の結晶をつくれ。
     48 地形およびその特異点(Unique Topography)
         地形は、建築や集落にとって、最大の潜在力である。地形の願望を満足するよ
         うに、建築や集落をつくれ。特に、地形の幾何学的な特異点を活用し、意味づ
         けよ。建築は新しい地形である。
     49 さまざまな勾配(Gradation)
         空間を、地形的に捉えるように、すべての勾配で捉えよ。神聖なるものと俗な
         るもの、私的なるものと公共的なるもの、新しいものと古いもの — これら
         はすべての明るさのように、勾配で捉えねばならない。
     50 砂漠(Desert)
         砂漠は、宇宙への門である。砂漠は知恵を誘起する。
     51 オアシス(Oasis)
         オアシスに苛酷な自然が現れる。
     52 (Mountain)
         山の姿に似せて集落の姿をつくれ。山が見えるのではなくて、山に反射する光
         が見えるのだ。だから、山の変容に注意しなくてはならない。
     53 (Valley)
         谷は、反転した山である。またマイナスの中心である。
     54 (Ocean)
         海のうたは、どこまでもとどくとはかぎらない。けれども、いずれの場所でも
         海が澄むように、人は住みたいと思っているものなのだ。
     55 (Island)
         不思議なことに、いずれの集落も島である。
     56 樹木(Trees)
         樹木に寄りかかるな。樹木を際立たせよ。樹木に知性を吸いとられぬよう、緊
         張しつづけることだ。
     57 (Stone)
         過去の記憶である石の切り方が、集落や建築の様相を決めることもある。
     58 (Birds)
         鳥は集落や建築の友である。
     59 (Clouds)
         不定形であること、透明であること、光を映し出すこと、不断に変化すること、
         境界がさだかでないこと、密度の分布があること。そうしたことどもを、雲は
         教えてくれる。また、ひつとして同じ雲はない。ときに、集落は、雲にたとえ
         られる。
     60 かげろう(Heat Shimmer)
         かげろうのように、集落をつくれ。遠方から集落に近づくにつれて、次第に事
         物の個別性が明らかになるように、形象を階位づけよ。
     61 合理的な解決(Solution)
         合理的な解決は、一通りではない。すべての要請が、一気に解決されるような
         解答は、この世にはないからである。もっとも特異な解決を選び、それを一般
         化せよ。
     62 仕掛けとたたずまい(Device and Appearance)
         独自のたたずまいを誘起する仕掛け(device)がある。このからくりが、辺り
         から集落独自の空気を切り取る。
     63 幾何学(Geometry)
         この世には、多様にして高度な幾何学ありうる。
     64 境界(Boundary)
         さまざまな境界に意を払え。境界は、秩序の原因である。
     65 入れ子構造、埋蔵(Net Structures/Embedding)
         村のなかに村を築け。家のなかに家を築け。
     66 重ね合せ(Overlay)
         事物や空間は、幾重にも幾重にも重ね合せよ。
     67 反転(Inversion)
         反転は、時に演劇的な空間効果を生む。
     68 風景(Landscape)
         風景に社会が現れる。風景に自然の願望や悲しみが現れる。
     69 (Treshold)
         境界であって境界でない閾には、特に注意せねばならない。閾は、出入りする
         ものどもの限界を指し示す。だから、閾は境界のシンボルであり、あらゆる出
         入りするものどもに対する門である。
     70 禁忌の領域(Territory and Taboo)
         禁忌の領域が、建築や集落を保存する。
     71 遠くから、近くから(Far Away/Close-by)
         遠くからは、辺りに溶けこむ姿をもて。近くからは、辺りから際立つ姿をもて。
     72 建物の内部(Inside and Out)
         建物内部から外が見えるように、外から建物の内部を見せるものではない。
     73 表と裏(Front and Back)
         アンチノミー(二律背反)は、勾配のわかりやすい表示である。多数のアンチ
         ノミーを同時に意味づけて、重ね合せよ。
     74 小刻みな変化(Gradual Change)
         時間にせよ、空間にせよ、変化は小刻みである。
     75 人影(Human Figure)
         人影がない場所をつくれ。
     76 縮小(Reduction)
         すべてのものは、拡大するより、縮小するほうが好ましい。すべてのものを、
         やや小さめにつくれ。
     77 強度(Intensity)
         ある事柄についての偏愛や執着の強度が、幻想的な様相を誘導する。
     78 シルエット(Silhouette)
         高さの微妙な変化を重ね合せよ。色彩や材料の微妙な変化を重ね合せよ。
     79 (Form)
         姿よい形が、必ずしも優れた形であるとは限らない。姿わるい形が、必ずしも
         劣った形であるとは限らない。大切なのは、いろいろな寸法において、いろい
         ろな形が次々と出現してくることである。
     80 構造(Structure)
         ルーズな構造を与えよ。そして、さまざまな経路を生成せよ。
     81 材料(Materials)
         材料が同じなら、形を変えよ。形が同じなら材料を変えよ。
     82 寸法(Dimensions)
         寸法によって、建築をだまし絵に仕立てよ。
     83 高さ(Height)
         空中を歩け。
     84 色彩(Color)
         場所の色、その変化を捉えよ。特に、退色する様相に注目せよ。
     85 角度(Angle)
         寸法と同じように、角度にもかぎりない変化があることを忘れるな。
     86 事物の距離(Distance Between Objects)
         事物が感応し合うように、距離を保て。
     87 (Wall)
         壁は、定義である。指し示すことである。あるいは、こんなふうに言ってもよ
         い。壁は自由の限界であると。壁はまた、それゆえに、容器としての空間のシ
         ンボルである。壁は、争いの原因であり、争いから逃れる手段でもある。その
         意味からも、壁は自然を映し出している。
     88 (Floor)
         床は、新たな地形である。それゆえに床は、場としての空間のシンボルである。
     89 屋根(Floor)
         屋根は、すべての混乱を納める。それゆえ、屋根は共同体の象徴的表現たりう
         るのだ。
     90 (Column)
         柱は、世界軸(axis mundi)であり、言語とものが和解する装置である。直
         立するものは美しい。
     91 装飾(Embellishment)
         装飾は、あってもよいし、なくてもよい。少なくてもよいし、多くてもよい。
         しかし、集落や建築自体が風景のうえからすると、自然に対する装飾である。
     92 扉と窓(Doors and Windows)
         建物のほとんどの部分は動かない。扉と窓は、動くわずかな部分である。すべ
         ての扉とすべての窓は、世界に続いている。
     93 (Gate)
         いかめしい門をつくるな。門の変形を辺りにちりばめよ。
     94 (Bridge)
         橋は、道であると同時に門である。
     95 (Street)
         道は、ループをもつ川である。流れである。建築や集落にさまざまな道をつく
         れ。そして、建築と集落を経路化せよ。
     96 広場(Public Space)
         広場は、共同体の制度を表現する。
     97 あき地(Vacant Land)
         あき地の空気は自由だ。あき地の空気はカオスだ。
     98 地下室(Basement)
         地下室は、記憶の箱である。
     99 中庭(Courtyard)
         平面上のゆがみを中庭で吸収せよ。中庭には、世界の始点であり終点である。
     100 部屋(Room)
         部屋の数だけ世界がある。