◇第1の様式

 1954年の篠原の最初の作品である「久我山の家」から彼が目指していたものは当時日本中に流行していた欧米のモダニズムの構成とは異質のものを目指すことであった。それは同時に日本の伝統の再評価ということでもあり、様式を重要視することであるとした。建築における日本の伝統様式には貴族的な背景を持つ住宅(桂離宮に代表される書院造り)と竪穴式住居を原形に持つ民家がある。篠原はこのどちらを用いるかで終始迷い続けているのだが、日本伝統様式にみられる形や素材の断片的な使用を超えた現代の方法を試みようとしている。 日本の伝統建築の特徴として、無駄な空間、分割空間、正面性、単純性等のキーワードが挙げられる。 また篠原にとって日本建築の伝統とはモダニズム建築の合理的方法に対して非合理で情念と言うような言葉で説明されるものである。それは様式を通して象徴空間を表現したものであり、単純な構成や屋根の架構の抽象化をめぐって力強さや美しさ、空間の可能性や永遠性を民家の象徴として表現したものである。