

現在、空間を概念的に理解する場合、どの部分をとっても等質で方向性がなく、連続で
特にその原因がなければ力も作用しないという抽象的空間が一般に想起される。それは、
幾何学におけるユークリッド空間である。こうした抽象化は、デカルトの〈延長 ex-
ension〉なる概念によって明確になった。デカルトによる空間の規定は、いくつかの点
を除けば、現在のわれわれの日常的な空間の概念的な把握に近い。つまり、物体と空間
とを延長なる概念のうえで同一視したことである。ロックは、デカルト的な考えを継承
しながら物体と空間の差異を指摘し、なにもない空間つまり純粋の空間 pure spaceの
観念をもつことができるとした。ロックの純粋空間は、その部分相互を分離できない。
即ち、一体性がある。また、純粋空間の各部分は静止したまま部分相互の位置関係は変
わらない。この空間の理解はニュートンの絶対空間とも共通した性格をもち、純粋空間
が観念的に構想される場合、均質性をもつようになる。そして均質な空間は、近代にお
いて物理現象あるいは社会現象を説明する際の空間の理想状態とみなされるようになる。
19世紀になると非ユークリッド幾何学の発見があり、ロバチェフスキーやリーマンの
幾何学が現れた。これにより、幾何学が準備する様々な公理に基づく抽象的空間のモデ
ルのうち、どれが実在する空間を説明するうえで適当であるかという選択を行う余地が
生じたのである。曲面のうえで説明された非ユークリッド幾何学を基礎にして、それと
アナロガスな3次元の空間をイメージするとき、例えば距離の均質性が崩れる空間が想
定できる。リーマンはユークリッド空間について、「必然的なものではなく、単に経験
的な確信である。即ちこれらは仮定である」とした。この見解は、後にポアンカレやマ
ッハに継承され、現象学的空間論を生みだすに到った画期的な思想であった。ライヘン
バッハは、このあたりの事情を「数学は可能な世界 possible spacesを見いだし、物
理学は何が物理的空間に合致する空間であるかを決定する」と言っている。即ち、物理
空間はあらかじめ決定されているのではなく、解釈されるべき対象となったのである。
□均質性(均等性)を考慮しているもの



