梱包の手法は、空間と等質化することを拒否することを
          目的としている。梱包するということは、そこに含まれ
          ているべき内部の空洞を、下界からいったん絶縁し、隠
          蔽することである。その手続きを幾度か繰り返すことに
          よって、相互に不連続な、偏心した、特性を持った空間
          の系列を成立させる。あえて梱包と呼ぶのは、それが単
          に、物理的に自然界から内部を保護するための被膜であ
          るのではなく、内部に異化した空間を成立させるための
          境界をつくることである。
          空間の異化とは、本来透明性を持ち、等質であった空間
          が、人工的に隠蔽され、彩色され、鑿孔され、装置が添
          加され、素材に質感が与えられる、といった操作を加え
          ることによって、特定の意味が内側から顕示されてくる
          ことをさしている。そのように異化した空間は、必要に
          応じて、いくつも構成できるのだが、それが一定の場に、
          ひろがりをもって分布することが、建築の内部空間その
          ものだともいえる。
          ここで、絶対的透明性への志向という、近代建築がたえ
          ず所有してきた主題が、私たちの作業対象から抹殺され
          る。そのかわりに、闇や薄明や妖光、乾燥して平板なも
          のから濃密でエロティックなものまで、失われていたあ
          らゆる空間の諸相が、デザインの意識的な目標として浮
          かび上がってくる。梱包とは、このような意味を持った
          異化空間を内部に保持するための被膜を作ることである。