転写とは、元来実像から情報が剥離していくための手法
         のひとつである。あらゆる建物が、それが現在の世界に
         所属するかぎりにおいて、TV、ポスター、雑誌、などの
         マス・メディア、あるいは椅子、文房具、パッケージと
         いったレディ・メイドの侵蝕を許容しないわけにはいか
         ないのだ。しかも、そのようなマス・メディアやレディ
         ・メイドはけっして単一の様式に統御されることはない。
         歴史的、地理的、自然的、人工的、とあらゆる発生源の
         区別はあっても、いったんひとつの空間に虚像となって
         侵入するときは、その形態があらわすものとは等価にさ
         れてしまっている。そして、受け手であるあなたは、こ
         の情報群に対して、選択−たとえばチャンネルの切り替
         え−という行為によってしか応答できないでいる。
         転写の手法は、伝達される像が各種の回路を経ることに
         よって、独特の雑音が混入し、必然的に変調されてしま
         うというメカニズムを、設計作業の主軸におくことであ
         る。とすれば、素型とでもいうべき選択される形と、そ
         れを転写の過程で変調する処理のシステムのふたつが、
         その決定要因になる。